訴訟のパターン ②損害賠償をめぐる紛争

 

②損害賠償をめぐる紛争

 

A,各種の類型
    交通事故
    学校事故
    労災事故
    製品事故
    火災事故
    消費者取引
    金融取引
    人格権侵害
    医療過誤
    専門家責任

B,一般の不法行為
  現代社会では、さまざまな分野で生活する人々が、何らかの被害を受け、その被害が大きければ大きいほど、受けた損害の填補を目的とする制度(被害者救済制度)を打ちたてていくことが必要です。
  社会生活が深化、複雑化していくのにともない、損害賠償請求の類型や内容が、より深くなってきています。
  損害賠償請求の基本目的は、損害を分担させることにある(被害者の損害を責任のある者に負担させる)のは、疑いの余地はありませんが、損害を分担させるには、以下に記載する「条件」の存在が、必ず必要です。

 1、 過失があること
  行為者(加害者)の故意または過失により損害が発生したこと。
  「不可抗力」で、損害が生じたときは、責任は認められません。
  過失とは、「注意義務」に違反して結果を発生させたことです。
  現在では、専門家については、最善の注意義務と「説明義務」を要求されています。
  医療過誤における医師、専門家責任における専門家(弁護士・司法書士・行政書士・税理士・宅地建物取引業者・建築士・不動産鑑定士)などです。
  なお、注意義務には、結果を回避する義務が含まれており、結果発生(具体的な危険の発生)の「予見可能性」と、「回避可能性」の有無が激しく争われ、責任の有無についての結論が左右されるケースが増えてきています。

 2、 違法性があること
  法律上保護されるべき利益が違法に侵害されたこと。
  通常、法律上保護されるべき利益の侵害があり、加害者に故意または過失があれば、違法であると考えられています。
  したがって、違法性がないと争うときは、加害者が、それを立証しなければならないこととなります。
  公害や生活妨害(騒音、日照妨害など)については、がまんの限度(「受忍限度」)を超えるかどうかが違法性の判断基準とされています。

 3、 損害が発生したこと
  損害が現実に生じたこと。損害は実際の損害(実損)に限られます。
  損害には、積極的損害(財産が出ていくこと)と、消極的損害(入るべき財産が入らなかったこと)とがあります。
  また、財産的損害と非財産的損害(無形の損害ないしは慰藉料によって補填される損害)とがあります。
  いずれにしても、損害賠償責任は、一括払いによる金銭賠償が原則です。
  また、加害行為から生ずる損害は、無限に拡大する可能性があるので、「相当因果関係」にある範囲内での損害に限られます。
  被害者自身または、この者と一定の身分関係にある者の過失(「被害者側の過失」)により損害が発生・拡大したときは、損害賠償額が減額されることがあります(「過失相殺」
  さらに、心因的要因や疾患(病気)が損害の発生・拡大に寄与したときは、損害額が減額されることがあります(「素因減額」)。

 4、 因果関係があること
  加害者の加害行為と、被害者に発生した損害との間に因果関係があることが必要です。因果関係の存在は、被害者が証明しなければなりません。
  医療過誤や公害などについては、因果関係の解明が、なかなか困難ですので、その立証の緩和がはかられる方向にあります。自然科学的因果関係の証明でなくても、医療過誤について、高度の蓋然性で足りるとか、公害訴訟について、疫学的にみて被害が生じうるときは因果関係があるとされるなどです。

C,債務不履行・安全配慮義務違反
  加害者と被害者とが、何らかの契約関係にあるとき、加害者に契約上の債務不履行が生じると、加害者は被害者に対し、「債務不履行責任」にもとづく損害賠償責任を負います。不法行為を理由とする損害賠償請求権があわせ生じるとき、被害者は、その双方の要件と効果を主張することができます。
  不法行為と債務不履行との差異は、債務不履行にあっては、債権者は債務者の故意・過失を証明する必要がなく、また、不法行為は、三年で消滅時効にかかるのに、債務不履行にもとづく請求権の消滅時効は10年とされていることにあります。
  そして、近時、契約に付随する信義則上の義務として「安全配慮義務」を根拠とする損害賠償請求を認める範囲が、逐次、拡大され続けています。
  「安全配慮義務」は、雇用契約・労働契約にともなう労災、公務災害のほか、請負契約・下請負契約にともなう労災事故、さらに、学校事故、医療事故、幼児の保護預り中の事故、運送中の事故へと順次、適用範囲が広げられています。
  結論としては、損害を蒙った被害者は、「安全配慮義務違反」を主張できる分野においては、これに集中して訴訟を進めるべきであると考えています。
  その際、被害者は、損害の発生と因果関係の存在を証明する責任を負うほか、前提として、安全配慮義務の内容を特定し、義務違反にあたる事実を主張し、立証する責任があります。

D、特殊な不法行為
 1、使用者責任
  使用者と被用者との間に使用関係(指揮・監督の及ぶ関係)があるとき、被用者が不法行為を(一般の不法行為の要件を満たすこと)、かつ、その行為が、「事業の執行」についてなされたときは、使用者は被用者と重複して責任を負います。
  取引行為による不法行為の場合は、被用者の行為の外形を基準として事業の執行にあたるか否か、判断されます。

 2、共同不法行為者の責任
  数人の共同による不法行為があった場合に、被害者救済のため、行為者全員に、連帯責任が認められます。その中に無資力者がいても、被害者は他の加害者に全額の損害賠償を請求でき、加害行為につき共同行為があれば足り、そのいずれの行為が損害を加えたか不明のときでも全員に責任を負わせることができます。

 3、国・公共団体の責任
  「公権力の行使」(私経済的作用を除く)にあたる公務員(国・公共団体に仕える者)が、その職務を行うについて(外形的に判断されます)、故意・過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国・公共団体は損害賠償責任を負います。但し、被害者は、公務員個人に対し、賠償を請求することは出来ません。

 4、土地工作物の占有者・所有者責任
  土地の工作物(建物、壁や堀など土地に施された設備)に、設置・保存の瑕疵(その工作物が客観的に本来備えるべき安全性を欠いていること)があることによって被害者に損害が現に生じたとき、第一次的には、その土地工作物の占有者が責任を負い、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていたときには、占有者は責任を負わず、所有者が賠償する責任を負います(所有者の賠償責任は、免責の余地のない無過失責任です)。

 5、営造物責任
  国又は公共団体が設置・管理する道路や河川その他の公の営造物に設置・管理の瑕疵があったため、他人に損害を生じさせたとき、国又は公共団体は賠償する責任があります(無過失責任です)。
  道路が安全性を欠いていたり(落石事故、穴が生じていた、故障車が放置されていた、などのとき)、河川管理の瑕疵などのほか、騒音を発生させる空港・自衛隊機・道路などについても営造物の瑕疵が認められるようになってきています。